2017.3.26
「有段者の心得」
諏訪道場 松浦 和史
世間で言うところの、いわゆる還暦の誕生日の夜、家族で食卓を囲んでいた時、目の前に座っていた当時91歳のお袋に、「俺も遂にロクジュウになったよ。」と何気なく云った時、何やら面白そうに微笑みながら、「あんた、まだそんなに若かったの?おめでとう。」と一言。
本当の意味は分からなかったのですが、その言葉が頭の片隅に残ってしまい、暦も還ったことだし、何か今までやった事のない新しい事を初めてみようと思いました。
丁度その頃、本屋で目にしたのが、津本 陽氏の「孤塁の名人」という武田惣角の弟子の佐川幸義のエピソードを物語にした本でした。
とてつもない合気道の世界に魅了されながらも、なかなか踏み出せないでいた時、新聞の折り込みに、仙川のカルチャーセンターのチラシが目に留まり、合気道の教室があることを知り、直ちに申し込みに行ったのです。
これが正に還暦一歳の事始めでした。
日々の稽古は勿論厳しいのですが、思いもよらず、とても楽しくて、新しい発見の連続、特に自分より若い人達、女性とまで一緒に稽古ができるという、私にとっては夢のような世界でした。
一級の審査の時は、自分より半世紀も歳の離れた少年と一緒に受けたのですが、いつもはそれぞれに受けの人が付くのですが、その時はどういう訳か私が先にその若者の受けを取ることになり、七月の暑さもあって疲労困憊してしまい、自分の審査どころではなくなってしまいました。その時、その若者が無事合格できた事が、自分の合格よりも嬉しかったのが
感慨深い思い出として残っています。
幸い二年前に初段にも合格しました。その時の気持ちは、登山に例えると、右往左往して道に迷ったあげく、やっと山の登り口を見つけることができたときの安堵感に似た感覚です。
この先、一歩ずつ登って景色が少しづつ、変化する楽しみ、本当にこのまま登り続けるこができるんだろうかという不安感もありますが、何より同行の仲間達への信頼感、一見、武道家の雰囲気とはかけ離れてはいますが、実はこの人は合気道に関しては大変奥の深い達人じゃないか、と思わせるリーダーが一緒なので、
これからもきっと、一歩づつ、まだ見ぬ景色を見るために、期待に胸を膨らませて登っていけたらと思っています。
宜しくお願い申し上げます。