弐段受験課題
有段者の心得
合気道諏訪道場 酒井 乙
初段を允可頂いた、ということは、初段の技を稽古し、深めるための入り口に立った、ということであり、決して、初段の技をマスターしたことにはならない。
先生より頂いたこの言葉が示す通り、段位とは、例えて言えば、自動車学校で運転免許の教習を受け、試験に合格した、という状態であり、実地の運転が向上したとは言えない状態である。 これに従って言えば、黒帯を巻いて稽古をしている身ではあるものの、「有段者」に至る道の入り口に立っているに過ぎないのが、今の私である。 その戒めを込めて、以下、心得を記すこととする。
有段者とは、「心技体」の鍛錬を怠ることなく続け、稽古を通じて「和合の心」を実践する存在でなければならない。
決められた技をひたすら覚え、審査の直前に、それらの技を再現出来ないと、焦りを見せている所から一歩抜け出し、日々の稽古の中で、なぜ、この動きが必要なのか、力と力がぶつかり合うことを避けるために、どのような工夫をすればよいのかを常に考え、研究する努力が必要である。
そうして得た知恵と工夫が、技術面の向上だけでなく、心の開発にも、繋がるよう、有段者は心がけるべきである。
具体的には、第一に、慢心を避けること。
いたずらに、黒帯であることを自慢したり、我が身の世渡りに使うことをせず、あくまでも段位とは、今後の鍛錬への道しるべであり、決して自身の優位を示すための道具ではないことを心すべきである。
第二に、「和合の心」を常に意識すべきこと。
合気道の基本的精神とは、日々の稽古を通じた、「和合の心」の実践に他ならない。
これは、道場の内外に関わらず、発揮すべき能力として、開発すべきである。
道場の中では、進むべき方向を示してくれる指導者、並びに、技の鍛錬に於いて、受け身を取ってくれる会員の方々への感謝と尊敬の心。 道場の運営がスムーズに進むように、自ら協力、配慮する心。
道場の外に於いては、合気道の有段者として恥じないような行動を行うこと。 両親、兄弟姉妹、配偶者、親戚から、学校での先生、職場での上司・部下、その他大勢のお世話になった(なっている)方々への感謝を常に忘れず、稽古で得た継続の力、努力、創意工夫の力を、自らの置かれた立場で、大いに発揮すべきである。
第三に、有段者としての責任と義務。
「黒帯は格好いい」、「段位を持っているなんて凄い」
普段、武道をしない人、または、始めて間もない人から、このように言われることは多い。
また、初心者が稽古を続けていくための動機の一つとして、こうした「憧れ」が働くことは否定できない。
その人達に対して、有段者として示すべきは、鍛錬によって得た技だけでなく、自ら事に当たって、課題や困難を進んで解決に導いていく実践の心である。
今後、段位を目標に稽古をしていく初心者に対して、指導者の監督の元、品格のある有段者になれるよう、導くことが、有段者としての責任であり、義務である。
最後に、楽しい稽古になることを心がけるべきである。
そのために、有段者自らが、その工夫を行う必要がある。
「継続は力」なり、であり、審査の結果ではなく、日々の稽古を続けていくことこそ、合気道の最も肝要な所である。
楽しい、と稽古をする者が感ずることで、稽古を続けることが出来、また、和合の心も磨かれる、というものである。
実力不足、精神の磨かれざること甚だしい私ではあるが、心技体の完成を目指し、今後も稽古を怠ることなく続け、ここに記した心得を戒めとし、努力を重ねていく所存である。
(了)