参段受験課題
合気道の稽古で得たもの
元住吉道場 手塚泰生
合気道は精神性の高い武道です。
武術ですから、根底には「勝敗は生死を分かつ」と言う厳しい考え方もあり、逆に、その厳しさが自らの戒めとなっています。
相手と対峙して、力を頼りに勝敗を競うと言うのではなく、
互いを高め合いながら、地道な稽古を重ねていく中で育まれていく和合の精神こそが重要なのであり、
型稽古に終始する合気道の稽古法そのものが、何年も掛けて、その事を自然と悟らせてくれるシステムなのだと、私は理解しています。
それは、術理にも反映しており、自己の強みで相手の弱みを圧倒する、或いは、相手が力を出し切ったところに乗じて勝つ、
と言った次元を超えて、一瞬、相手と一体化するところまで技術レベルを高めたものが、合気なのではないかと想像しています。
残念ながら、私自身は、そのような境地には到底到達できそうもありませんが、それを目標として精進したいと思っています。
合気道は物理的なテクニックだけではないので、形だけまねても同じようにはできません。
動きの意味は、相手のコンディションや筋力、骨格等の関係で変化するので、その質は表面から見ていても決して分からず、
実際に先輩や師範の手に触れて、直接感じ取らない限り、伝わるものではありません。
しかし、受けたことのある技は、DNAのように伝わっており、何年も掛けて体内で熟成され、ある日突然、できる様になったりします。
そうした小さな閃きが、薄紙を重ねるように積み重なっていく中で、動きの質が究極まで高まり、
大先生の「動けば技になる」、塩田剛三先生の「歩く姿が武」と言う境地に近づけるのかも知れません。
合気道を始めて間もない頃、道場には他の武道にも精通された高段位の諸先輩方が大勢おられ、
その方々に稽古をつけて頂く機会を得ました。
その事が、単に技術の向上のみならず、その後の私の人生にも大いに役立ち、今では掛け替えのない無形の財産となっています。